長崎で起業をした橋爪さんへのインタビュー。【前編】では起業に至るまでの背景をお伺いしました。前編:https://nami-kaze.net/news/booonここからは、Booonを設立してからの1年間の取り組みに迫ります。そして今後の展望もお伺いしました!急成長中のBooonを支える橋爪さんの行動力に注目です。ミルワーム生産参入への契機餌代の削減とサステナビリティ ミルワームの良さを知ったきっかけは何ですか?魚粉代替を考えていた時にリサーチしていたところ、数年前に発行されたあるレポートを見つけ昆虫飼料に出会いました。そこには、成分的には良いんだけれど魚粉に比べて製造コストが2倍かかると書かれていました。レポートを書いた方と実際にオンラインでお話し詳細を伺ったところ、レポートではヨーロッパやアメリカを基準にしているけれど、九州で作ると生産コストの大半を占めている熱源コストが削れるため、安く作れることが分かりました。既に当時より魚粉価格も高騰していたので、参入するなら今だと思いました。それをきっかけに昆虫領域に絞りました。当初はアメリカミズアブ(BSFL)の生産について調べていましたが、たまたま別件でFFGアントレプレナーシップセンターを訪れていた環境科学部服部充准教授(信州大学で様々な昆虫を育てていた昆虫飼育のプロフェッショナル)に出会い、育て方などを聞き出していると先生から機能性などの品質や量産化しやすさの面でミルワームが良いと提案頂き、早速ご自身の研究室でミルワームを育ててくれることになりました。※ミルワーム - 主に穀物などを食べて育つ昆虫の幼虫。低コストで環境に優しい餌として使用され、魚の成長を促進させる。持続可能なタンパク質源として、養殖環境の改善と資源の有効活用に貢献する。ミルワームを製造するにはどの位の期間が必要なんですか?6-7週間です。成虫を交配させて1回で200-500個くらいの卵ができます。それが孵化して、飼料にしていきます。ミルワームを製造する拠点はどちらにあるんですか? 現在は長崎県の大村市と長崎大学のラボにあります。年度内に福岡県の桂川町にも設置予定です。桂川町ではどのようなチャレンジをしていくのですか?新しい桂川町の拠点ではトラウトサーモンの養殖場があるので、現地でミルワームの製造、そして給餌できる体制を整えたいと思っています。生産者はおいしいサーモンを作りたいという気持ちが大きいので、東京大学農学部の先生方と協力し、給餌と「おいしさ」の関連性についての研究をしていく予定です。また、ミルワーム100%での長期給餌に耐えられるように検証していきたいと思ってます。どうやって協力してくれる場所(大村市や桂川町)を見つけているんですか?実は両方とも先方からのお問い合わせなんです。こういった新しいチャレンジをしたいと思っている会社が何社もあって、僕たちの活動を面白いと思ってくれていて声をかけていただきました。また、銀行さんや自治体から企業さんをご紹介頂くことも多く、現在は30社以上の企業様と、廃棄食品のサンプルを頂き給餌検証を行ったり、加工技術で協力頂いたり、研究拠点をお借りしたり、給餌検証を行ったり、別の事業会社さんをご紹介頂いたりと緩やかな協力関係を構築しています。資金調達と事業展開事業拡大(製造に)必要になる資金はどう集めているのですか?助成金をとってきたり、プログラムに申請をしたりしてます。助成金を活用するにも運用資金が必要なのですが、一番大きかったのはFFGのキューテック助成金(500万円)をいただいて予算的に無理がない状態で、会社を運営できるようになったことですね。大学からも2年間で4,000万円の研究費を割り当てていただき、融資を受けることなく、集まった資金で「Worm Pod」というミルワームを製造する機械を作っています。3月までに4機実装予定です。※キューテック - 一般財団法人ふくおかファイナンシャルグループ企業育成財団※Worm Pod - 環境への負荷が少なくかつ低コストで生産可能な自律分散型育成装置。コンテナタイプのコンパクトな装置で、IoTやAI、再生可能エネルギーによる高度な自律機能を備えている。売上的にはどれくらいを考えているんですか?今年からは数千万の売り上げ見込みです。幸い研究費は十分にあるため、良いものを作って売り上げをしっかり立てた上でエクイティでの資金調達をしようと考えています。どんな所と取引して事業展開していく予定ですか?福岡だとインフラ系の事業会社さんですね。関連施設のホテルや商業施設で売れ残った食品廃棄物からミルワームの飼育ができる機械を販売していく予定です。成長したミルワームは桂川町の養殖場を始めとし、使いたいと言ってくださっているところがたくさんあるので、まずはミルワームの生産規模化を目指しています。ピッチコンテストと受賞歴国内外のコンテストでの学びプロダクト開発や取引先開拓をする傍ら、様々なピッチコンテストに参加されたと思うのですが、どの様なコンテストに出てどんな賞を取られたのですか?X-Techでは九州地区最優秀賞をいただいた後、110社の応募が集まった全国大会でも最優秀賞をいただきました。StartupGoGoではFFG賞、西鉄賞をいただくことができました。またTORYUMON福岡でも優勝させていただき、農林水産省ビジネスコンテストINACOMEでは審査員特別賞、200社以上の応募があったOISTのアクセラレーションでも最終審査会でオーディエンス賞を取ることができました。スタートアップ経営者としては2周目なので、昨年の自分に勝つという明確な意志がありました。※X-Tech - 地銀5行共催のビジコン※StartupGoGo - 福岡を拠点とするアクセラレーター※TORYUMON - U25起業家向けスタートアップイベント※INACOME - 農林水産省とパソナ農援隊共催のビジコン※OIST - 沖縄科学技術大学院何が賞を取れた要因だと思いますか?世界展開が見えると言ってもらえました。日本の第一次産業の痛い所を言語化していて、かつ問題解決に繋がっていると評価してもらえました。特にX-Techで優勝できたのは、地方の強みを事業化するモデルなので、痒いところに手が届く、主催である銀行のお客さんに提案できそうだと思ってもらえたところだと思います。北海道、東北、九州、沖縄と地方を幅広く攻めて、絞り過ぎなかったところが良かったかなと思います。国内のみならず海外のプログラムにも参加されたようですが、印象的だったプログラムは何ですか?1つはSlushです。世界のスタートアップの感覚がわかって、日本はスタートアップをするには悪くないと感じました。海外はすごくプレイヤーが増えてきて、シードでも中々調達を受けられない状況で…。日本だったら筋さえよくてチームも固まってきたら出資が決まるじゃないですか。なので日本は資金調達をしやすい環境だと思います。2つ目はJ-StarXです。社としては2本受かっていたのですが、イスラエルでのコースは渡航の5日前に戦闘が始まって行けなくなってしまったんです。ビジネスでは世の中の事象が身近に影響するんだなと思いました。もう一つがボストンで行われた東海岸コースです。同期もシリーズB以降の方が多く背伸びをしているような感覚でしたが、ここの教育プログラムが本当に良くて…。アメリカの起業家教育は日本の10年先をいっているのを直に感じることができ、リアルなスタートアップとは何かを学べました。上場が夢から現実に変わりました。※Slush - 世界最大級の国際起業家・スタートアップ・投資家イベント※J-StarX - 経済産業省主催の起業家育成・海外派遣プログラムこれまで、地方での活動や年齢が若いことがボトルネックとなった経験はありますか?「長崎大学、しかも学部卒なのにこんなに評価されているのはおかしい」とか「地方だから評価されてるんでしょ」と言われたことがありますね。経営者として若いことからChildishな(子供っぽい)経営者だ、とかBullshit(ほら吹き)だとかも言われました。でも「長崎からここまで事業を育ててすごいね」「可能性を感じる、ぜひ協力したい」と言ってもらうことの方が多いです。生産者のニーズを直に感じることができる、一緒にチャレンジすることができるという意味で長崎や九州から始める意味がある事業だと思っています。2024年の目標最後に、1年目にすごく前進したと思うのですが、この勢いを後押しに2年目の2024年はどんな年にしたいですか?「等身大」がキーワードです。2023年はどう会社を大きくするか、事業としての方向性を常に考えてきました。これまでの研究をベースに会社としての船の準備は出来たので、2024年はビジョンを共有して一緒にこの事業を作っていけるチームを育て、中身を詰めていく1年にしたいと思っています!取材させていただき、ありがとうございました!2年目もどんな前進が見られるのか楽しみですね!(編集:富谷 インタビュー:波止、原口)